「求人を出しても応募が来ない」「優秀な人材に内定を出しても大手に取られてしまう」「入社しても中々人が定着しない」人事担当者であれば経験したことはあるのではないでしょうか。実は、求職者だけでなく社員も常に他社と比較しながら「この会社でこれからも働きたいか」と悩みながら日々過ごしています。転職が当たり前になり、企業は常に選び直される存在になったのです。
そこで今注目されているのが、EVP(従業員価値提案)です。EVPを明確に定め、制度として運用することは単なる採用テクニックではありません。あらゆる獲得手法の成功には欠かせない避けては通れない重要戦略です。
本記事では、採用力を根本から強化し、定着率を上げるためのEVP策定について徹底的に解説します。激化する売り手市場の中で、優秀な人材に選ばれ、社員に選ばれ続ける企業を目指したい人事担当者はぜひ最後までお読みください!
目次
EVPとは
EVP(Employee Value Proposition)とは、「従業員価値提案」の略称で、企業が従業員や求職者に対して提供できる価値(魅力)のことです。
企業のブランド力とも言い換えられ、従業員が「この会社で働き続けたい!」と感じたり、求職者が「この会社で働きたい!」と思える根拠になります。
EVPが不可欠となった3つの構造変化
1. 転職の当たり前化
従来は終身雇用や年功序列が当たり前でしたが、近年はこの制度や価値観に魅力を感じなくなった人が増え、転職するのが当たり前という価値観が広がっています。実際転職者の数は年々増加しています。労働者にとってはキャリアの幅が広がりますが、企業にとっては「採用して終わり」ではなく、入社後の常に他社と比較され続けることを意味します。そのため、優秀な人材に自社を選び続けてもらうためのEVPはかなり重要です。
2. 働く価値観の多様化
給与やボーナスなどの金銭的な要素だけでなく、リモートワークやフレックス制度などの働く環境、育児休暇などの休暇制度、自己成長できるかなど、働く人が企業に求める条件は多様化しています。
そのため、金銭的な部分以外の魅力を整理していく必要があります。
3. 売り手市場
労働人口の減少に伴い、市場は完全に売り手市場へとシフトしています。そのため、企業が優秀な人材を獲得するためには、なぜ自社なのかという独自の価値を提示できなければ、選ばれる企業にはなれません。
あらゆる獲得手段の根底にあるEVP
優秀な人材を獲得するための方法は様々ありますが、自社の魅力を磨くEVPという土台の上に複数のチャネルを使い分ける構造になっています。主に以下の4つの手法がありますが、全ての根底にEVPがあり、切り離せない重要な手法となっています。
| 手法 | コスト | 難易度 | 即効性 |
| EVP | 低〜中 | 高(継続が必要) | 低 |
| リファラル | 低 | 中(社内文化による) | 中 |
| ダイレクトスカウト | 中 | 高(工数がかかる) | 中 |
| 外部委託(RPOなど) | 高 | 低(プロに任せる) | 高 |
EVP導入の4つのメリット
1.採用力の強化
単なる給料や福利厚生という条件の良さだけでは、大手企業には勝てません。EVPによって独自の経験、裁量の大きさ、社会的な意義などの無形価値を言語化し発信することで競合他社との差別化が図れます。また、RPOなどで外部委託する際も、EVPを伝えることで歩留まり改善に繋がる可能性も高まります。
2.従業員エンゲージメントの向上
EVPは、求職者だけでなく、今働いている従業員に対しての約束でもあります。転職が当たり前になった現代において、社員が「他社と比較してもやはり自社には独自の魅力や価値がある」と思えることは、最強であり、離職率低下に繋がります。
3.企業理念やカルチャーの浸透
EVPを定義するプロセスは、自社の独自の価値観やアイデンティティを徹底的に深掘りし、明確にする作業です。そのため、結果的に目指すべき方向性が組織全体に共有され浸透していきます。また、浸透することで、自社の文化や価値に合う人、合わない人の基準が明確になるため、面接官ごとの評価のバラ付きも減り、採用のミスマッチ解消にも繋がります。さらに、理念が浸透していると社員が自発的に自社の魅力を外に発信するようになり、リファラル採用も活性化しやすくなります。
4.企業イメージの向上
一貫性のあるポジティブなメッセージを発信し続けることで、「〇〇な会社」というポジティブイメージが市場に生まれます。そのため、今は転職を考えてはいない潜在層に対しても自然とアピールすることができます。
EVPを構成する「5つの要素」
EVPは以下の5つの要素が組み合わさって形成されます。これらをバランスよくかつ独自の比率や内容で整えることが自社の魅力になり、選ばれる理由です。
①報酬制度
金銭的対価(給与・ボーナス・残業代・ストックオプションなど)
単に、給料が高い、ボーナスがあることだけが価値ではありません。「成果が正当に評価される制度」や「昇給制度」など納得感のある仕組みであることが重要です。
②福利厚生
住宅手当・各種保険・休暇制度・健康診・育児介護支援など
労働者の生活の質をどうサポートするかという間接的な報酬です。仕事の内容には直接関係しませんが、社員の生活やオフの時間を安定させる要素になります。
③環境
働く場所・労働時間・ITツール・フレックス制度・オフィスの快適さなど
どのように働くかというスタイルそのものです。働き方の見直しが注目される昨今では、個人のライフスタイルに対応できる柔軟な制度や体制は重要な要素になります。
④企業文化
企業理念・社風・人間関係など
企業文化は、最も他社が真似できない要素であり、会社独自の核になります。心理的安全性が高い、挑戦を称賛する、意思決定スピードが早いといった文化は、価値観の合う人材を惹きつけ、組織への帰属意識を高める重要な要素です。
⑤キャリア
研修制度・昇進の機会・スキルアップ支援など
この会社にいると、自分自身はどう成長できるのかという成長可能性の提示です。転職が当たり前になった現代において、市場価値が高まるというキャリア形成の機会はとても大きな報酬に繋がります。
EVP策定のための5ステップ
1.自社分析
まずは自社の現状を言語化しましょう。現段階で提供できているものは何かを洗い出します。前述の5つの要素(報酬制度・福利厚生・環境・企業文化・キャリア)に沿って自社の現状をリストアップします。経営層へインタビューをして会社が目指すビジョンや大切にしている価値観のすり合わせを行うようにしましょう。
2.従業員&求職者のニーズ調査
自社分析で洗い出した自社の魅力とターゲットが求めているものにズレがないかと確認しましょう。社員インタビューを行い「なぜこの会社で働き続けているのか」という本音を抽出します。中にいる社員からすると当たり前だと思っていることが、実は外部から見ると魅力である場合も多いため、客観的に丁寧に深掘りするようにしましょう。
3.他社分析
同業種や、同じ職種がいる企業など、競合他社がどのようなEVPを掲げているかしっかり調査しましょう。採用サイトや求人票を見て他社にはないが、自社にはあるものを丁寧に分析します。そうすることで、自社の勝てるポイントを見極めることができます。
4.EVPの絞り込みと決定
ここまでの分析結果をもとに、自社が最も強調すべき「核」を見つけましょう。具体的な方法としては、自社分析で行った自社の強みと、ターゲットのニーズ、他社との差別化部分の3つが重なる部分を言語化します。
5.EVPの導入・運用・浸透
EVPは一度作って終わりではなく、運用、浸透させなければいけません。そのため、決定したEVPを社内・社外に発信していきましょう。採用サイトやスカウト文面、その他にも社内イベントや評価制度など既存社員の体験にも一貫性を持たせて浸透させます。RPOなどの外部委託を活用する場合は、言語化したEVPを共有しておきましょう。
EVP導入を成功させるための注意点5つ
EVP策定はかなり根気とパワーが必要なプロジェクトになっています。そのため、以下の5つを気をつけて取り組んでいきましょう。
1.実態に基づいた正直な提案を行う
自社分析の際、こうありたいという理想、つまり嘘は書かないようにしましょう。EVPは約束であるため、実態とかけ離れたEVPを掲げてしまうと入社後の早期離職を招く最大の原因であり、企業の評判を下げるリスクにもなります。
2.要素を絞り込み、シンプルに言語化する
EVPの絞り込みと決定の際に、あれもこれもと盛り込みすぎないようにしましょう。全てを盛り込んだメッセージは、誰にとっても当たり障りのないどこかで聞いたことのある普通の内容になってしまい、結局誰にも刺さりません。要素を絞り込み、一言でいうとどんな会社かが伝わるシンプルさが重要です。
3.発信して満足しない
EVPは宣伝文句ではなく約束です。そのため発信した内容と実際の社内環境に乖離があると、外向きにいい顔しているだけの会社というイメージがついてしまい、エンゲージメント低下のリスクになります。そのため、約束が守られているか定期的に確認することが必要です。具体的には、従業員満足度などを通してチェックし、改善していきましょう。
4. 頓挫しないように気をつける
EVPは重要度は高いが、緊急度は低い業務になりがちなため、他の業務を優先してしまい、いつの間にか頓挫してしまっている恐れがあります。細かく目標を分解し、期限を明確に設けるようにしましょう。特に重要なのは、実際に手を動かす人を明確に決めることです。ここを決めておかないと気づけば止まっているプロジェクトになってしまうので要注意してください。
5.客観的な第三者の視点を取り入れる
中にいる人間にとっては当たり前すぎて気づけていない魅力が、外から見ると実はその企業の大きな価値であることは少なくありません。そのため、外部コンサルタントに客観的な意見をもらったり、直近入社した中途社員になぜ入社したのか、どう見えていたのかをヒアリングしましょう。第三者の視点が入ることで、市場価値の高いEVPが完成します。
まとめ|選ばれる企業になるために欠かせないEVP
EVPの重要度、メリット、策定ステップ、注意点を具体的に解説してきました。ポイントは以下です。
・EVPは明確に誰がいつまでに何をするかを決めることが重要
・EVPは誰にとってもいいものではなく、ありのままの魅力を正しくターゲットに伝えていくことが重要
・EVPを頑張ることで、採用力が強化されるだけでなく、離職率の低下にも繋がる
EVPは、難易度が高く、長期戦になるため後回しにしがちですが、社員からも求職者からも選ばれ続ける企業であるためにはかなり重要な手法です。「この会社でこれからも働きたい!」「この会社に入りたい!」と思ってもらえるように運用と改善をコツコツ重ねて魅力的な企業であり続けてください!
よくある質問
Q1. EVPとブランディングの違いは?
まず企業ブランディングとは、顧客や投資家など社外に向けて会社の商品やサービスの良さを伝えていくことです。一方で、求職者や従業員に向けて「この会社で働きたい」と思ってもらうための活動をエンプロイヤーブランディングといいます。EVPは、このエンプロイヤーブランディングの核となる自社が従業員や求職者に提供できる価値そのものです。つまり、企業ブランディングの対象が顧客、エンプロイヤーブランディングの対象が求職者・社員、そしてEVPはエンプロイヤーブランディングの中身という関係です。
Q2. 中小企業やスタートアップでもEVPは必要ですか?
むしろ中小企業やスタートアップこそEVPが必要です。大手企業のように知名度や待遇で勝負しづらい分、自社で働く価値を言語化できているかがかなり重要になってきます。裁量の大きさ、意思決定のスピード、経営者との距離の近さなど、中小企業だからこそ持てる強みは多くあります。規模が小さいうちにEVPを整理することで、会社が大きくなってもブレない採用の軸ができます。
Q3. EVP策定にはどのくらいの期間がかかりますか?
規模や進め方によりますが、目安として3〜6ヶ月程度が一般的です。自社分析・社員インタビュー・他社分析で1〜2ヶ月、絞り込みと言語化で1ヶ月、導入・発信の立ち上げで1〜2ヶ月というイメージです。ただし、記事内でも触れた通り、EVPは緊急度が低いため後回しになりやすいプロジェクトです。期限と担当者を明確に決めて、小さくても着実に進めていくことが完成への近道です。