施工管理の若手を迎えても、仕事を覚える前に辞めてしまえば、採用にかけた手間は残りません。建設業に就職した新卒の3年以内離職率は、高卒で41.4%と全産業の37.9%を上回ります。大卒は30.5%で、全産業の33.8%より低い水準です(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」、2022年3月卒。産業別の値で、施工管理職だけの数字ではありません)。高卒の若手の定着に悩んでいるのは、自社だけではありません。
施工管理の若手育成は、入社後に何をどの順番で任せるかと、教える人が無理なく続けられる形を先に決めておくと進めやすくなります。
この記事では、任せる仕事の段階表の作り方、指導役の負担の減らし方、振り返りの頻度と記録、関東地方整備局の工事で評価される若手技術者の育成指導をまとめました。施工管理の若手を迎えた建設会社の採用担当・工事部長の方に向けた内容です。
「育成を見直したいけれど、何から決めればいいのか」と迷っている方は、いま育てている若手を思い浮かべながら目を通してみてください。
目次
任せる仕事を段階に分ける
施工管理の若手育成は、入社後に任せる仕事を段階に分け、次の段階に上げる基準を決めるところから始まります。「何年で一人前」という目安は会社や工事の種類で変わるので、ここでは年数ではなく、仕事の中身で段階を組む方法を取り上げます。
最初に任せるのは現場の補助業務
1段階目に任せるのは、現場の流れを覚えながら手を動かせる補助の仕事です。
- 工事写真の撮影と整理
- 日報や安全書類の作成の補助
- 朝礼やKY活動への参加
- 資材の受け入れの確認
- 先輩の打ち合わせへの同行
1日の中で本人が受け持つ作業を決めておくと、何をすればいいか分からないまま現場で手持ち無沙汰になる時間が減ります。
あわせて、仕事の全体像を先に見せておきます。ある施工管理の会社は、現場経験の浅い社員向けに、関係者の相関図や、問題の原因を整理する特性要因図などを使った図解の教育資料を用意していました。発注者、設計者、協力会社、職人のなかで自分がどこにいて、どこまでを受け持つのかが見えると、補助の仕事が何につながっているかを本人がつかみやすくなります。
段階を上げる基準の決め方
2段階目からは、少しずつ判断を伴う仕事に移ります。工程表の一部を作る、協力会社と段取りの電話をする、小さな工事を担当する、施工図をチェックする、といった仕事です。
段階を上げる基準は、年数ではなく「この作業を1人でできたら」で書いておきます。基準が仕事の中身で決まっていると、本人も指導役も、次に何ができればいいかが分かります。
段階表は、次のような形で作れます。
| 段階 | 任せる仕事の例 | できたと判断する基準の例 | 確認する人 |
|---|---|---|---|
| 1 | 工事写真の撮影と整理 | 撮り直しの指示がなく1週間分を整理できる | 指導役 |
| 2 | 工程表の一部の作成 | 指導役の修正が軽微で済む | 指導役・所長 |
| 3 | 小さな工事の担当 | 協力会社との段取りを自分で回せる | 所長 |
表の中身は記入例です。工事の種類や現場の規模に合わせて、自社の仕事で書き換えてください。
夜間作業を経験者に任せる会社
責任の重い場面をいつ若手に任せるかも、段階表に書いておきます。未経験からの採用を中心にしている施工管理の会社は、夜間作業が発生したときは、トラブルを防ぐために未経験者ではなく役員や経験のある担当者が対応すると決めていました。
若手に任せない場面を先に決めておくと、若手がいきなり重い判断を迫られる状況を避けられます。段階が上がったら、どの場面から任せるかを指導役と所長で話し合って決めます。
第二次検定の時期を段階表に入れる
施工管理技士の技術検定は、2024年度から受検資格が変わりました。1級の第一次検定は、学歴や実務経験を問わず、年度末に19歳以上であれば受けられます。2級の第一次検定は、以前と同じく年度末に17歳以上で受けられます(国土交通省「施工技術検定規則及び建設業法施行規則の一部を改正する省令」等の公布)。
実務経験が必要なのは第二次検定です。新しい受検資格では、実務経験を第一次検定の合格後から数えます。たとえば2級の第二次検定は、2級の第一次検定に合格してから実務経験3年以上が必要です。
若手の場合は、第一次検定をいつ受けるかと、合格後の実務経験がいつそろうかを段階表に書き込んでおくと、資格の取得と任せる仕事の段階を同じ表で見られます。第二次検定の受検資格は年数や経験の種類で細かく分かれているので、受検の前に試験機関の案内で確かめてください。
20代の中途も最初の段階から確かめる
20代で中途入社した経験者も、前の会社と工事の種類や立場が違えば、段階表の最初から確かめます。施工管理の経験があっても、扱ってきた工事や任されていた範囲は会社ごとに違います。
工事の種類が違うと経験がそのまま通じないことは、採用の場面でも起きています。ある土木の会社は、鉄道工事が中心だった経験者を、一般の公共工事では再教育が必要だとして見送っていました。入社後は、経験者だからとすぐ1人で現場を任せず、段階表のどこから始められるかを入社してすぐの時期に見極めます。
指導役が続けられる形にする
任せる仕事の段階が決まったら、次は誰がどう教えるかです。育成が続くかどうかは、指導役が自分の現場を抱えながら、無理なく教えられるかに左右されます。
上司1人に若手を預けきりにしない
ある建築の施工管理の会社は、若手の早期離職の主な原因として、配属された現場や上司の当たり外れ(いわゆる現場ガチャ)と、厳しい指導の文化を挙げていました。
若手を配属先の上司1人に預けきりにすると、その上司との相性に若手の1年目が大きく左右されます。別の現場の先輩と関わる機会を作る、現場を移るときに指導の記録を引き継ぐ、といった工夫で、上司1人に頼らない形にしておきます。
指導役の負担を軽くする
指導役は、自分の現場を持ちながら若手を教えています。育成に使った時間を業務の一部として扱い、評価の対象に入れる方法があります。
基礎的な知識は、外部の講習に任せることもできます。施工の基本、図面の読み方、安全の基礎といった内容は外部で学んでもらい、指導役の時間は、現場でしか教えられないことに使います。
指導役とは別に相談できる相手を置く
若手には、指導役には言いにくいことを相談できる相手も必要です。若者雇用促進法の施行規則は、新卒者を募集する会社が提供する職場の情報の1つに、「新卒者等に相談・助言を行う者を割り当てる制度の有無」を挙げています(青少年の雇用の促進等に関する法律施行規則 第3条)。
制度の名前をつけるより、誰に何を相談してよいかを決めておくことが先です。年の近い先輩、別の現場の社員、総務や人事の担当者など、指導役以外の相手を1人決め、若手に伝えておきます。
指導の仕方と振り返り
任せる仕事と指導役が決まったら、どう伝えて、どこで振り返るかを決めます。
作業の理由を添えて教える
見て覚えさせる代わりに、作業の理由を添えて教えます。なぜこの順番で写真を撮るのか、なぜこの書類が要るのかが分かると、若手は次に似た場面が来たときに自分で判断できるようになります。
間違いを指摘するときは、作業の事実と、次にどうするかをセットで伝えます。「この写真では配筋の間隔が読めないので、次はスケールを当てて撮る」のように、何が足りなかったかと次の行動が1度で分かる言い方にします。
振り返りの頻度と記録を決めておく
振り返りは、気づいたときに行うのではなく、月1回など頻度を決めて記録に残します。記録の項目は、次の3つがあれば足ります。
- できるようになったこと
- 次に任せること
- 困っていること
記録が残っていると、段階表のどこまで進んだかが指導役と所長で共有でき、現場が変わっても引き継げます。月1回という頻度は、関東地方整備局が工事の入札で評価している若手技術者の育成指導と同じです。
関東地方整備局の工事で加点される若手技術者の育成指導
関東地方整備局の工事には、若手技術者の育成指導を入札で評価する仕組みがあります。この評価が適用される工事なら、社内で決めた育成の段取りを育成計画書と月1回の指導の形に整えることで、入札での加点につなげられます。
若手技術者活用評価型の育成指導の条件
関東地方整備局の「若手技術者活用評価型の育成指導」の条件は次のとおりです。
- 競争参加資格確認申請のときに、安全管理・工程管理・品質管理のいずれかについて、定期的な若手技術者の育成指導を行うと表明すると加点評価される
- 受注後、施工計画書とあわせて若手技術者育成計画書を作成して提出する
- 育成指導の内容は受注者が決められ、外部の講習会を使ってもよい(安全管理では、共通仕様書にもとづく定期の安全研修や訓練は含めない)
- 育成計画書にもとづいて、工事の施工にあわせて月1回の育成指導を行う(契約工期が6か月なら6回以上)
- 工事の完成時に、若手技術者育成指導実施報告書を作成して監督職員に提出する
この資料は2022年に作成されたものです。対象になる工事と適用の条件は、工事ごとの入札説明書で確かめてください。ほかの地方整備局や自治体に同じ趣旨の評価があるかどうかも、発注者ごとに確認が必要です。
若手・女性技術者奨励賞
関東地方整備局は、2024年7月11日に「若手・女性技術者奨励賞」の創設を発表しました。関東地方整備局が発注した工事や業務で、優秀な成績を収めた若手・女性の技術者を表彰するもので、発表では、2025年度(2024年度に完成した工事等)から表彰するとしています。
発表の時点では、総合評価での加点は検討の段階とされていました。現在の扱いは、関東地方整備局の最新の発表で確かめてください。
育成計画書の型は社内の育成にも使える
関東地方整備局の工事を受けていない会社でも、この育成指導の型は社内の育成に使えます。指導する分野を決め、頻度を決め、終わったら記録を残す、という流れには、任せる仕事の段階表と月1回の振り返りの記録をそのまま当てはめられます。
育成で見直すこと3つ
育成の仕組みを入れたのに若手が続かなかったとき、見直したいことが3つあります。
残業と一緒に任せる仕事まで減らしていないか
残業を減らした結果、任される仕事も減り、若手が成長を感じられなくなることがあります。
働きやすさを整えることと、段階表の段階を上げていくことは両立できます。残業を減らすときは、任せる仕事の段階が止まっていないかもあわせて確認します。
配慮しすぎて任せない・指摘しないでいないか
辞められたくないという思いから、難しい仕事を任せない、間違いを指摘しないという状態になることがあります。若手からは、放っておかれていると受け取られることもあります。
任せる仕事は段階表に沿って上げていき、指摘は作業の事実と次の行動をセットで伝えます。
メンター制度の運用を決めているか
メンター(相談役)の担当を決めただけで、面談の頻度、記録の残し方、相談してよい範囲を決めていないと、指導役が自分の現場で手一杯になったときに面談が止まります。
制度を作ったら、振り返りの頻度と記録の項目、指導役の負担を軽くする工夫までを、同じタイミングで決めておきます。
採用の段階から育成を見据えて見直したい場合は、施工管理の採用の手法の選び方と、決まる募集の設計にまとめています。
まとめ
施工管理の若手育成は、任せる仕事を段階に分け、次の段階に上げる基準を「できたこと」で決めるところから始まります。指導役を上司1人に固定せず、外部の講習も使って負担を減らし、月1回など頻度を決めて振り返りを記録に残します。
関東地方整備局の「若手技術者活用評価型」が適用される工事では、若手技術者の育成指導を表明すると入札で加点されます。適用される工事と条件は入札説明書で確かめてください。
最初の一歩として、いま育てている若手1人について、任せている仕事と次に任せる仕事を書き出してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 施工管理は何年で一人前になりますか?
A. 決まった年数はなく、任せる仕事の段階をどこまで上げられたかで判断します。工事の種類や規模、本人の経験によって、同じ年数でも任せられる範囲は違います。
段階ごとに「この作業を1人でできたら次へ」という基準を書いておくと、本人と指導役が同じ目安で進められます。
Q. 20代で中途入社した経験者にも育成は必要ですか?
A. 前の会社と工事の種類や立場が違えば必要です。施工管理の経験があっても、扱ってきた工事の種類や任されていた範囲は会社ごとに違います。
最初の段階から一つずつ確かめ、できることが分かった段階から任せていきます。
Q. 指導役が忙しくて、育成の時間が取れません。どうすればいいですか?
A. 基礎的な知識は外部の講習に任せ、指導役の時間は現場でしか教えられないことに使います。若手を上司1人に預けきりにせず、別の現場の先輩とも関わる機会を作ると、指導役1人の負担が軽くなります。
育成に使った時間を業務として扱うことも、指導役が続けやすくなる方法の1つです。
専門家に相談してみませんか?
この記事の監修者
高谷 匠TAKATANI TAKUMI
TEAM-X株式会社 取締役COO/一般社団法人建設技能者転職支援協会 代表理事
新卒でリクルートに入社し、採用コンサルティング会社HeaRのCOO、アイ・グリッド・ソリューションズのEV事業責任者を経て、2025年12月にTEAM-Xへ参画。会社全体の事業戦略と組織構築を統括している。
- 厚生労働大臣許可「建設業務有料職業紹介事業」(許可番号 27-ケ-30001。制度創設から約20年で全国4団体、関西の団体としては初)を運営する一般社団法人建設技能者転職支援協会の代表理事
- TEAM-X株式会社 取締役COOとして、施工管理・職人の人材紹介から採用コンサルティング・RPOまでの事業戦略と組織構築を統括
- 新卒でリクルートに入社後、採用コンサルティング会社HeaRのCOO、アイ・グリッド・ソリューションズのEV事業責任者を歴任


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